大宮ダーリン、クレメン・タイム
2008年11月11日:このタイミングで、クレメン・ラフリッチが大宮アルディージャの熱烈なサポーターのアイドルになるとは!
後半の半ばを過ぎても1-1のスコアのまま、まったくの互角の展開だったアルディージャ対フロンターレ戦で、ラフリッチは記憶に残るようなゴールを決めた。そのシュートの噂は埼玉からスロベニアにまで伝わり、数シーズンにわたって語られることだろう……語り手は、主にラフリッチ本人ではあるが。
ライトバックの塚本泰史がフロンターレのゴール前に上げたクロスは、大柄のラフリッチにピタリと合っているようには見えなかった。ボールが少し後ろに流れたからだ。しかし、ラフリッチはゴールに背を向けワントラップでボールを少し浮かせると、オレンジの残像を残しながら体を反転させ、右足で狙い澄ましたような強烈なシュートをゴールのファーサイドの隅に叩き込んだ。
クレメンが活躍する“クレメン・タイム”が訪れ、アルディージャが2-1のリードを守りきった。そして、降格を避けるための戦いでは重要な意味を持つ勝点3を得たのである。
勇敢な大宮は、期待外れのデキだったフロンターレに勝って当然の戦いぶりだった。勝てば順位表のトップに躍り出るアウェーチームだったが、そのパフォーマンスからは、そうした立場にあるチームだとはとても思えなかった。フロンターレには、このような場合に必要とされる切迫感と自信が欠けていたのである。
アウェーチームのファンが試合後もチームに温かい声援を送っていたことに、私は意外な感じを受けた。その日のフロンターレは、チャンピオンになれるだけの選手は揃っているにもかかわらず、それにふさわしいメンタリティに欠けていることを如実に示していたからだ。
その午後は、大宮の方がずっとキレがあり、貪欲に見えた。また、J1通算300試合目の出場となった藤本主税の貢献により、良い立ち上がりを見せることもできた。藤本はラフリッチの低い弾道のシュートがポストに当たって跳ね返ったのを捉えて26分に先制点を決めると、ホームのサポーターに彼のトレードマーク“阿波踊り”のもてなしをした。
私は、これでフロンターレが目を覚まし、とにかくこの試合をなんとかしようと気持ちを切り替えるかなと思った。しかしその9分後、同点ゴールが決まったときにもそのような兆しはまったく見られなかった。左サイドからの中村のフリーキックはラフリッチがヘッドでクリアしたが、フロンターレのライトバックの森がフリーでそのボールに合わせ、ドライブのかかったシュート。ゴール前30mの地点から打たれたボレーシュートは江角の意表を突き、大宮のゴールネットを揺らした。
これよりすごいシュートはNACK5では当分のあいだ見られない。私はそう思ったのだが、その“当分のあいだ”はわずか42分だった。77分にラフリッチが強烈なシュートでホームの観客を熱狂させたからである。
このコラムのタイトルの元ネタは、もちろん有名なあの曲『オーマイ・ダーリン・クレメンタイン(愛しのクレメンタイン)』である。クレメンというラフリッチのファースト・ネームを耳にするたびに、私はいつもこの曲を思い出してしまうのだ。そう、今回このフレーズを使わなければ、いつ使うというんだ!
ラフリッチの代理人――彼のJリーグのクライアントの1人である、サンフレッチェ広島のミハイロ・ペトロビッチ監督と一緒にこの試合を観戦していた――も、試合終了のホイッスルが吹かれたときに何かの歌を口ずさんでいたのを私は聞き逃さなかった。もっとも、その曲はアバの名曲のようだったが。『マネー、マネー、マネー…』。
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