巻のサクセス・ストーリー
ワールドカップの日本代表に巻誠一郎が選出されたことは、巻個人だけでなく、Jリーグ全体にとっての勝利だった。
もし巻が選ばれていなかったなら、本人だけでなく、サッカーに携わる多くの人々が失望し、やる気をなくしていただろう。
しかし、ジーコの大胆な決断――まあ、これまでの慎重な姿勢から見れば大胆と言っても良いだろう――により、全国の若き選手たちが、努力を続け、希望を捨てずにいればトップ・レベルでも報いられるのだという希望を持てるようになったのだ。
今シーズン、私はジェフのイビチャ・オシム監督と巻を話題に二度ほどじっくり話し合ったのだが、オシムは、自らのチームのやる気に満ちたセンターフォワードをいくら褒めても褒めたりないといった様子だった。
「彼はすべての日本人選手のお手本」というのが、コメントの1つ。「まったく無名の存在から、代表チームにまで駆け上ったんだ」。
またオシムは、「どのチームにも巻のような選手が不可欠だ」とも語った。つまり、試合の後半、おそらく残り30分くらいから途中出場し、疲れを知らずに走り回って局面を打開する選手として、巻を表現しているのである。
「テクニックはさほど大したものじゃないが、ハートはとても、とても強い」とオシムは言う。
シーズンが進むにつれ、巻に対する支援が大いに高まり、日本国内の英字メディアからの支援も見られた。
巻の爆発力と価値を如実に示す試合を選ぶとすれば、それはジェフがホームで浦和に2−0で勝った試合だろう。
その試合、巻は強烈なドライブのかかった見事なシュートをサイドネットに決めただけでなく、ジェフの前線に立ち、闘莉王のパワーと坪井のスピードを相手に厳しく消耗の激しい戦いを繰り広げていた。
その後のキリンカップの2試合では、巻は現状での試合勘と調子の良さを改めてアピール。その姿は、さまざまな故障に苦しみ、かつてのような、力強く、予想不能の独特なスタイルを見せられなかった久保とは対照的だった。
ジーコはみんなをさんざん待たせ、最後に巻を発表しようとしたのだろう。普通の状態での論理的帰結と言える久保か、それとも巻か?
ジーコは後者を選んだ。そして、サッカーに携わる多くの人々に笑顔をもたらし、明るい気分にさせた。
巻ほど、この栄誉にふさわしい選手はいない。オシムが言うように、無名の存在(駒澤大学出身地)から代表チームに駆け上がり、たった3シーズンでワールドカップの代表にまでなってしまったのだ。
まさに、全国の若い選手を励ますようなサクセス・ストーリーである。
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