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『小笠原に恋して』

2006/02/23(木)

先日、私は1年前に英国で買った“David Beckham Annual”(「デビッド・ベッカム年報」)を読んでいた。
「デビッドの記念日」という見出しの下には、1996年8月17日の金字塔的偉業が記録されていた。
「セルハースト・パークでのウィンブルドン戦、デビッドはハーフラインあたりから衝撃的なゴールを決め、その名を知らしめた」と日誌には記されている。
「そのゴールが決まったのは、2−0でユナイテッドがリードした試合の終盤。ベックス(ベッカムの愛称)はこう回想する。『キーパーのニール・サリバンが前に出ているのが見えたので、ロブで頭を越そうと決めたんだ。それからは、みんなが言うように、歴史になっちゃったね』」。

なんとなく「デビッド・ベッカム」が「小笠原満男」に見える。
そう、土曜日のフィンランド戦で小笠原が見せたロングシュートは、ベッカム級だった。実際には、ドンズ(ウィンブルドンの愛称)を相手に決めたベッカムのシュートより良かった。小笠原のシュートのほうがもっと距離があったからだが、もちろん、マンチェスター・ユナイテッドがプレーするイングランド・プレミアリーグの試合ではないので、世界中の多くの人がこのシュートを見るというわけにはいかない。

日曜日の日本のスポーツ紙や一般紙は、実際の距離を決めかねていた――50mと報じるところもあったし、55mも、57mも、58m、さらには60mというのもあった。しかし、距離の判断はどうであれ、各紙のメッセージは明らかであった。エコパと日本は、疑いようのない才能を持った1人の日本人選手が放った、真に驚異的なゴールを目撃したのである。
右足でシュートを放ったとき、小笠原は自陣にいた。前述のケースのベッカムと同じように、彼もキーパーが8mほど前に出ていることに気がついた。彼のキックは、完璧と言うしかないものだった。

タイガー・ウッズがフェアウェイから打っても、あれほどピンにピタリとつけることはできなかっただろう。小笠原が美しく浮かせたボールは、まさに正確かつ精密。
あの状況下では、フィンランドのGKを批判することはできない。GKの身になってみれば分かる。1人の日本人選手が日本側のハーフでボールを受け、前方にフィードする態勢にある。FWへのロングパスなら、GKはゴールエリアから飛び出して割って入る備えをする。しかし、GKは不意にそのボールがパスではないことを悟った。ボールが強く蹴られたからだが、背後にスペースはほとんどない。GKは後ずさりしてゴールラインを死守しようとしたが、バランスを崩し、バーの下に落ちてきたボールに触れることもできなかった。完璧だ!
そう、GKを責めるのは酷というものだ。GKのせいにすれば、小笠原の素晴らしさが少し色あせてしまうではないか。

1996年、その衝撃的なゴールを足がかりとし、ベッカムはスーパースターへの階段を駆け上がった。スケールこそ小さくなるが、小笠原の信じられないようなゴールも日本サッカーの歴史にずっと刻まれることだろう。
映画『ベッカムに恋して』は世界中で放映された有名な作品だが、今回、小笠原があの長い距離からゴールネットに突き刺したベッカム・スタイルのシュートは、映画のタイトルを『小笠原に恋して』にしたほうが良いと思わせるようなものだった。

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