自分を責めるしかないアルパイ
それは数週間前のことだった。自宅でくつろいでいると、電話が鳴った。
携帯電話ではなく、自宅の電話だ。
きっとまた、2007年4月のさいたまスタジアムでのホームゲームのチケットは267枚しか残っていません、という浦和レッズからのファックスだろうと思った。まだどこと対戦するかもわからないと言うのに…。
ファックスの高いトーンが聞こえるだろうと思いつつ受話器を取った耳に、消え入るような声が聞こえてきた。
「ハロー、ハロー、ムッシュ・ウォーカーですか?」。
ご想像の通り彼女はフランス人。サッカーのエージェントで働いている。
「ムッシュ・アルパイ・オザランの電話番号を教えてもらえませんか?」。
私は、電話番号は知らないと答え、かわりに浦和レッズの番号を教えた。“ムッシュ・アルパイ”の電話番号を教えてもらうには、クラブに電話をするのが早いだろう。
彼女は「あるフランスのチームがアルパイを獲得したがっているんです」と付け加えた。
「ええ、恐らく彼なら獲得に時間はかからないでしょうね」。私はそう答えた。
「なぜですか?契約が切れるんですか?それとも、あまり調子が良くないとか?」。彼女は尋ねた。
「えぇと…。いや、それどころか彼は全くプレーしていないんですよ。レッドカードとイエローカードをもらい続けていてね。恐らく今シーズンは、ブラッド・ピットがバレンタインデーにもらう以上のカードをもらってるんじゃないかな」。
(実際には、ブラッド・ピットのくだりはフト思っただけで口にはしなかった。次回のために覚えておくことにしよう。)
翌日、アルパイはまたも退場になった。大宮スタジアムで大宮アルディージャがヴィッセル神戸を粉砕するのを見ていた時、私の日本人の同僚が新潟の同僚から聞いたと教えてくれたのだ。
そして案の定、今週アルパイは契約満了まで6ヶ月を残して解雇された。
思えばシーズン開幕戦の鹿島アントラーズ戦で退場になったのが、全ての予兆だったのかもしれない。
退場処分を受けるまで、アルパイは鈴木隆行にイライラしていた。
正直、それはそんなに難しいことではない。鈴木隆行はみんなをイラつかせる。しかしアルパイはまんまとハマってしまったのだ。
アルパイは鈴木のあごを掴み、鈴木は再び倒れた。その日、鈴木は度々ピッチに倒れていたので、ペナルティエリアの周辺には鈴木の体の跡が残っていると噂されていた。まるで『Xファイル』のような話だ。
アルパイの気の短さは折り紙つきだった。しかし、ピッチ外ではとても良い奴でフレンドリーなのだ。それがピッチ上では豹変してしまう。
チームへの貢献、決意…人は様々なことを言うだろう。
しかし選手は、海外へ移籍したらその国のサッカーというものを学ばなければならない。
日本のサッカーは危険や乱暴というものとは縁遠い。にもかかわらずアルパイは試合終了の笛を聞くまでピッチに残ることができない。時にはハーフタイムの笛を聞くことさえできないのだ。
彼は、日本サッカー界で大きく飛躍する機会と高額の給料を与えてくれたチームを裏切り、そして彼自身を裏切った。
良い選手で個性的。日本のサッカーにもっと様々なものを与えられたはずなだけに、残念でならない。
おっと失礼。また電話だ。
きっと、さっきのフランスのエージェントに違いない。
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