憂うつな午後を明るくしてくれた小野式CK
あれは、小野式CK(コーナーキック)と呼ぶべきものだった。
小野といっても、伸二ではない。
剛のほうだ。
土曜日に熊谷スポーツ文化公園陸上競技場にいた人なら——さほど多くはないだろうけれど——、大宮アルディージャ戦の後半にサンフレッチェ広島が見せた、CK前の独創的とさえ言える動きにきっと気づいたことだろう。
キッカーが左側からCKを蹴ろうとしているにも関わらず、大宮のペナルティエリア内にいるサンフレッチェの選手は1人だけ。
サンフレッチェは0−0でゲームを終え、アウェーで勝点を得られればそれで良い、という考えだったのだろうか?
いや、そうではなかった。5、6人の選手がペナルティエリアの外側10m辺りで一列に並び、CKのボールが上がると、一団となってゴール前に突進したのである。2チームが戦闘態勢に入り、グラウンドの中央で衝突しているようだった。
そのCKは成功しなかったが、交代で入った前田俊介が試合終了間際にゴール前をすり抜けて見事なシュートを決め、試合は広島が勝利した。
しかし、やっぱり気になるのはあのCKだ。
小野剛監督の試合後の話によると、あのような作戦をとったのは今シーズンで2度目だったそうだ。最初は横浜F・マリノス戦で、理由は同じだった。
「僕が考案した動きです」と小野は微笑みながら話した。
「大宮には187とか188cmぐらいの、長身で頑強な選手が何人かいるので、選手をマーカーから離しておきたい。キックの前に接触されるのを避けたかったんです」。
う〜ん、面白い。
大宮のディフェンス陣が、マークすべき相手を探しながら誰も見つけられなかった様子は、見ていてなかなか楽しいものであった。
憂うつな午後がほんの少し明るくなったのは事実だ。その日は寒くて、風が強く、どんよりとした雲に覆われており、5月中旬の午後3時キックオフなのに照明が必要な天候だった。
そのうえJリーグの試合には珍しく、ピッチも万全とは言いがたかった。
キックオフのかなり前から、グラウンドキーパーたちが芝のなかの小石を拾い集めなければならなかったほどで、まるで北朝鮮チームの試合直後のような状態。
試合が始まると、ピッチの一部には砂が浮き出ていた。しかし、なにより厄介だったのはボールがおかしなバウンドをすることだった。
「とてもひどい状態でしたね」と小野監督。「両チームにとって、ピッチの状態が悪いのはお互いさまですが、観客の皆さんにとっては迷惑だったでしょう」。
「ピッチ状態が良ければ、両チームとももっと面白くて、技術的で、戦術的なサッカーができたでしょうね」。
収容能力が小さいため、大宮公園サッカー場の使用は今シーズンが最後になるかもしれないという噂もあるが、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場のほうのリスクが大きいのは明白だ。
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