シンガポールのサムライとシャワーと石鹸と
シンガポールには、有力な新聞が2紙ある。
朝刊といえば、きわめて健全な記事が載っている「ストレイト・タイムズ」。夕刊といえば「ニュー・ペーパー」で、こちらはセックスやスキャンダルがお好きなようだ。
そうそう、それからサッカーも。
月曜日、タブロイド判の「ニュー・ペーパー」にはスポーツ欄が18ページあった。
そのうち11ページはイングランドのプレミアリーグに関するもので、8ページが、ハイバリーで行なわれたアーセナル対マンチェスター・ユナイテッド戦のレポート、分析、写真、図表に割かれていた。
素晴らしい・・・1つの試合に8ページとは!
プレミアリーグにはさらに3ページが割り振られていて、ボルトン・ワンダラーズがニューカッスル・ユナイテッド相手に幸運にも1−0で勝利した、信じられないような試合が1ページ丸々使って報じられていた(あ〜あ。ニューカッスルのファンとしてはこう書いているだけでも辛い。個人的には、1ページではなく、1行で充分だよ!)。
サッカーの記事はさらに5ページあった(イタリア、スコットランド、シンガポールの記事が1ページずつ、それからベッカム/スペインの記事が2ページ)。
つまり、18ページのスポーツ欄のうち16ページがサッカーの記事であった。また、残りの2ページは競馬の記事であった。
水曜日の日本対シンガポールのワールドカップ予選が採り上げられていたのは、地元テレビ局の1ページ全面広告だけ。広告には、「ライオン対サムライ」と書かれていた。
シンガポールの記者に、ライオンがサムライに襲いかかり番狂わせを起こす可能性があるどうかを、訊ねた。
「ノー・チャンス・ラー」とシンガポールの記者は答えた(シンガポールの人は、いつもセンテンスの最後に「ラー」を付ける)。
「刀を二振りして、サムライが勝つよ(サムライ・ウィル・ウィン・ラー)」
月曜日の朝、私は試合会場である、ジャランベサル・スタジアムを訪れた。収容人員はわずか6000人。
他のイベントと重なったため、5万5000人の収容能力がある国立競技場が使用できず、その結果、インターネットでチケット争奪戦が繰り広げられた。
このスタジアムにはメインスタンドとバックスタンドしかなく、両方のゴールの後ろは壁である。
砂の多いピッチに立つ一方の壁の後ろにはジャランベサル複合水泳施設があり、水曜の夜にスイミングを楽しむ地元の方はシュートミスのボールが飛んでくるのに注意しなければならない。
壁のちょうど真後ろはスイミングプールに付設のシャワー室で、地元のリーグのゴールキーパーが強烈な石鹸の匂いに思いをかき乱される場所として有名である。
あるいは、ひょっとして、シャワー室の泡が壁を越えて漂ってきて、キーパーの鼻先で弾けるというようなことはないのだろうか?
日本は3点差か4点差で勝たなければならないが、楢崎の目に大きな石鹸の泡が入って、ロングシュートを許してしまっても、驚いてはいけない。
つまり、これはワールドカップの予選であり、何が起っても不思議ではない。
たとえサムライであっても。
*このコラム(原文)は3月30日に書かれたものです
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