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勝利しか見えない、ジーコ

2003/08/14(木)

 ヨーロッパのクラブが、8月20日に東京で行われるナイジェリアとの親善試合に、日本がわざわざ自分たちのクラブの選手を呼び戻したがるのを理解できないのは、当然である。
 しかしその一方で、ジーコが、どうしても彼らを呼び戻したい、というのも当然なのである。
 はっきり言えば、ジーコは勝って、一息つきたいのである。
 それに、ナイジェリアだけでなく、来月に控えるセネガル戦、11月のカメルーン戦と苦戦が続けば、ジーコの代表監督の座も危ういものとなるだろう。

 ジーコの代表監督1年目は、満足のゆくものではなかった。
 Jリーグにはオーソドックスなフルバックがほとんどいない状況であるのに、ジーコはシステムを3−5−2から4−4−2に変更しようとした。さらに、選手たちが自分で考えることを奨励した。そのような姿勢は、日本の一般の社会様式とはかけ離れたものであるのに、だ。
 上記の二つが主な原因となり、ジーコ・ジャパンは満足な成績を残すことができず、10試合でわずかに2勝したのみ。ホームでは未勝利が続いている。
 日本代表は、コンフェデレーションズカップではなんとしても準決勝に進むべきであった。せっかく緒戦のニュージーランド戦で楽勝したのに、戦力落ちのフランスに敗れ、最後は、日本にとって後々まで尾を引きそうな試合をして、前の世代のような才能、きらめきを持ち合わせていないコロンビア代表にも敗れてしまった。

 ジーコは、プレッシャーを感じている。
 最高の選手たちを呼び戻そうとするのも、そういう事情があるからだ。なんといっても、ヨーロッパでは新シーズンがすでに始まっていて、日本人選手たちは新たなチーム、新たな監督、新たなシステムに溶け込もうとしている最中なのである。
 8月20日はFIFAの国際Aマッチデーとなっているため、クラブには選手を送り出す以外に選択の余地は残されていない。他にも多くの試合がこの日に組まれているが、今回の日本人選手のように、きわめて短期の日程で、きわめて多くのタイムゾーンを通過する、きわめて長距離の旅が設定されている例はない。

 ドイツでは、すでにシーズンが開幕していて、高原はハンブルガーSVの先発メンバーに名を連ねている。イングランドのプレミアリーグは今週末に開幕で、稲本はイングランドでの3度目のシーズン、フルハムでの2度目のシーズンで地歩を固めようと必死だし、イタリアのセリエAは今月末に開幕を控え、レッジーナ(中村が所属するチーム)とサンプドリア(柳沢が所属するチーム)が対戦する。ただし、中田が2週間後にもパルマにいるかどうかはわからない。

 ジーコはすでに、ナイジェリア戦では高原と大久保をトップに使う予定で、コンフェデレーションズカップで感じた勢いをそのまま持続させたい、と発言している。
 ならば、なぜジーコが、ベンチに座っているだけのために、あるいは45分程度プレーするだけのために柳沢を呼んだのかが不可解である。その期間に柳沢はジェノアでトレーニングを積み、腰を落ち着けることだってできるのである。

 日本サッカー協会は、これからの3試合は来年2月に始まるワールドカップ予選の準備である、と言明している。協会は各クラブに対しても同じような説明を行い、クラブとの関係をできるかぎり円満に保とうと努めている。
 しかし本当の理由は、ジーコが何試合かで勝利し、代表チームが後退ではなく、前進しているというアピールをしなければならないということなのだろう。
 チームとしての規律より個人の能力に大きく依存するジーコの戦略を考えれば、最高の選手たちを呼び戻し、チームに活力を与えてもらおうとしているのだということがわかる。
 現状では、ジーコにとっては自身の将来のほうが、ヨーロッパの日本人選手たちの将来よりも明らかに重要なのである。

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