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進化する中田英寿

2003/03/30(日)

中田英寿のキャリアを細かに追ってきた者にとって、彼のピッチ上、そしてピッチ外での変貌には目を見張るものがある。
水曜の午後、鹿島ワールドカップスタジアムでの出来事が良い例である。
代表チームのトレーニングセッションの間、彼はチームメートを指揮し、ジーコ監督よりも多くの指示を出していた。時には個人に、そしてある時はグループに、それはまさに完璧なキャプテンの姿だった。ジーコ監督の弁を借りれば、監督自身がピッチに立つ事ができない以上、監督の戦術を理解し、それをチームに的確に伝えることのできる誰かが必要であるということだ。

トレーニング終了後、ホテルへ向かうバスに乗り込む選手をつかまえようと、報道陣が選手出口付近に集まっていた。
日本の取材陣が小野や中村、そして稲本をはじめ他の選手を追っている間に気づかれないようにと思ったのか、中田は最後の方に出てきた。
しかし、東京で働く数人の外国人ジャーナリストを見つけ彼は立ち止まった。
「ヒデ、いくつか聞いても良いかい?」我々はそう話しかけた。
「OK、だけど少しにしてよ」と中田は流暢な英語でキッパリと言った。
皆さんもテレビでご覧になったと思うが、インタビュー中の彼はリラックスし、始終ユーモアに溢れていた。
「ウルグアイ戦ではキャプテンを務めるのかい?」
きっとそうなると知っている中田の答えは「どうかな?たぶんね」と返ってきた。
「ジーコ監督は経験のある君が他の選手達をリードしていく事を期待しているのかな?」
「どうかな?監督に聞いてよ」

掴み所がなく、やや分かり難いが茶目っ気があるやり取りは、彼がベルマーレ平塚にいた頃や、1998年にイタリアに渡ったばかりでペルージャにいた頃の彼とは比較にならないほど変わった。
当時の彼は一匹狼で、ピッチ上では勇気や才能を見せつけるものの、ファンに対しては距離を保ち情熱や感情を表にだすことはなかった。
私は、対香港戦で素晴らしいフリーキックで得点を決めた彼の姿を覚えている。それこそデビッド・ベッカムなら両腕を広げてスタンドに走り寄り、観衆の喝采を全身に浴びるところだが、中田はバツが悪そうに自陣へ小走りに帰っていった。

私は彼に、なぜ他の選手のように喜びを素直に表さないのか尋ねた。
「その時一瞬の事でしょう。何も特別な事じゃない」彼はそう答えた。そして、彼はたまたまサッカーが得意だっただけで、もしかしたら他のものが得意だったかもしれないと付け加えた。
「そうでしょう?もしかしたらピアニストになっていたかもしれないよ。だけど、たまたまサッカー選手だっただけのことだよ」彼は言った。

エスパルスとFマリノスの元監督、オジー・アルディレスでさえ、中田については2・3年前に彼を代表チームのキャプテンに推しながらも、彼は試合のことなどどうでも良いように見えると言っていた。
中田は常に真剣だ。そして、イタリアではチームメートやライバルから選手として、また人間として非常に評判が良い。
単に、サッカーが彼の人生の全てではないと言うことだ。いつの日か彼は次の人生へと進んでいくだろう。
イタリアでの様々な経験が彼を成長させ、そして今や信頼できるリーダーになった。
まさに驚くべき変化である。

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