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アレックス成功のカギは、プレー・スタイルを変えること

2002/08/22(木)

 数年前、ドイツの偉大なストライカー、ユルゲン・クリンスマンがトットナム・ホットスパーに入団したとき、最初の記者会見でクリンスマンは次のような質問を投げかけ、駆けつけた記者団の虚を突いた。
「だれか、この近くでダイビング・スクール知らないかなあ?」

 イングランドでは、クリンスマンはダイバー(スイミング・プールではなく、サッカーのピッチでの話である)として評判が高かったが、この種の振る舞いはプレミアリーグの激しい戦いでは容認されてはいない。
 ドイツ人選手は自身の評判に気づいており、まずそのことをジョークの種にしようとしたのだろう。つまり、賢明なクリンスマンらしい賢明な行動であったわけで、クリンスマンは、フリーキックやペナルティー・キックを得るためのダイビング能力ではなく、ゴールをあげる能力によってイングランドでとても敬愛される選手となった。
 しかしクリンスマンも、そのプレー・スタイルを変えたのである。グラウンドに体を投げ出してばかりいては生き残っていけない、と悟ったのである。

 いま私は、プレミアリーグのクラブ、チャールトン・アスレティックが興味を示している、アレッサンドロ・ドス・サントスも同じだと感じている。
 アレックスは良い選手で、もちろんクリンスマンと同じレベルだとは言わないが、巧く、危険なフォワードである。
 しかし、アレックスもダイビングに関する評判が高い。ディフェンダーを抜き去る能力や、左足で巧妙なクロスを送る能力は認めるものの、私は彼を完全に評価しているわけではない。激しいタックルをもらった時も、軽いファールの時も、ひどいケガをしたふりをするからだ。

 清水エスパルスと鹿島アントラーズの試合ではいつも、試合とは別にもう一つの魅力的な戦いを見ることができる。アレックスとアントラーズの向こう見ずなライトバック、名良橋晃との間で繰り広げられる戦いだ。
 激しいタックルで有名な名良橋は、ウイングの魔術師の持ち味を消すためアレックスにぶつかっていくことを何よりも好む。しかし名良橋の問題は、時々アレックスがボールを持っていない時にもぶつかっていき、イエローカードの原因となってしまうことである。

 イングランドに移籍すれば、アレックスは名良橋に感謝するようになるだろう。イングランドでは、どのディフェンダーもアントラーズのライトバックのようなタックルをしてくるからだ。
 イギリス人にとっては、アレックスはもちろんブラジル人で、ワールドカップで有名な青と白の日本代表のユニフォームを着たと言っても、日本人ではない。
 イングランドの土壌で、イングランドのディフェンダーの前にブラジル人のウイングが現れれば、結果は見えている。トラブル、である。
 アレックスは相手チームの荒っぽい対応を覚悟しておいた方がいいだろう。勇気を持つ必要もあるだろう。彼がグラウンドに倒れても、レフリーはJリーグのように優しくはない。
 レフリーはプレー続行を促し、アレックスは自分で立ち上がり、プレーを続けなければならないだろう。
 あまりに頻繁に倒れるようであれば、ファンは手厳しく非難するだろう。プレミアリーグでは、欺瞞や不正を容認することはできないのだ。そのスピード、正直さ、激しさによって、プレミアリーグは世界中で人気を博しているのである。

 アレックスはクリンスマンから学ばなければならないだろうし、自身のスタイルをかの地のスタイルに合わせなければならないだろう。
 成功するだけの技術とスピードがアレックスにあることは疑いもないが、早急に頑健さを身につけなければならない。
 イングランドで数ヶ月プレーしたあとでは、名良橋のタックルも名波浩のタックルのように優しく思えることだろう。

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