お祭り気分のサッカー界と世界の現実
ワールドカップでの楽しみの一つはサッカーのみならず、会場に集まる有名人が多い事だ。
特に我々サッカーレポーターにとっては、お菓子屋で子供が次に何を買おうかと迷っている状態そのものだ。
先日行われたFIFA総会でも懐かしい顔を見る事ができた。ユーゴスラビア代表として2回のワールドカップ出場歴を持ち、37歳にして現ユーゴスラビアサッカー協会会長、ドラガン・ストイコビッチである。
「現役時代は選手としてサッカーを考え、プレーする事が僕の仕事だったんだ」FIFA会長選挙についてストイコビッチは「でも今は政治をやってるみたいでどうも勝手が違う」と語った。
選手の頃も一旦ピッチを出ると人なつっこく愉快であったが今もそれは変わらず、どこの国が優勝するかと尋ねられた彼は「周りではナンバーワンだとかチャンピオンだとか言ってフランスが優勝候補だと言っているけれど、誰もブラジルには注目していないみたいだね」「でもねこれだけは言っておきたいんだけど、ブラジルは素晴らしいチームだよ。きっとチャンスだと思うよ」と語った。
また5月中旬にモスクワで行われたトーナメントでユーゴスラビアと対戦したロシアを見て、日本は十分にセカンドラウンドに進出できるはずだと語った。
「ロシアはあまり状態が良くない。たしかに良いチームではあるけど強いという程ではないね。だから日本はきっとセカンドラウンドに進めると思うよ」
また日本のキープレヤーは中田英寿、小野伸二、そして鈴木隆行だと語った。
「特に鈴木が良いね」と多少のお世辞も込めてそう言った。
翌日は、かの皇帝フランツ・ベッケンバウアーが主賓として来るというのでマクドナルド主催の式典に出かけてみた。
彼のスマートで均整のとれた身体にはジャンクフードは似つかわしくないが、それはともかくとしてベッケンバウアーには不満に思っていることがあるようだ。
それはもちろんビッグマックについてではなく、試合数の多さについてである。
「ジダンやフィーゴの所属するレアル・マドリードなどはシーズンに70〜80試合もするのです」かつてのドイツの英雄はそう語った。
「どう考えても多すぎるし、彼らも疲れているはずです。疲労が蓄積していけばそれだけ怪我をするリスクも大きくなりますし、それは非常に問題だと思います。試合数は減らさなければなりません。単純な事なのです」
その後、ユニセフとFIFAが共同で開いた記者会見にはイギリス人の俳優ロジャー・ムーア(ある年代以上の人にはジェームス・ボンドと言った方がわかりやすいだろう。
また彼のスウェーデン人の奥方はイングランド代表監督のスヴェン・ゴラン・エリクソン監督と同郷らしい)が参加していた。
ムーアはユニセフ大使としてワールドカップに関わる数字にちなんでこう語った。
「皆さん、ワールドカップが開催されている30日間という間には100万人の子供達が戦争、飢饉、そして伝染病で死んでいくのです。そして90分間では540人がHIVに感染し85人がエイズで亡くなります。また400人の子供達が親を失うのです」
ワールドカップのお祭り気分でビッグマックを頬張り、バドワイザーを流し込んでいた我々には衝撃的な話ではあった。
レッドカードをくらったとか左足を骨折すといった事に我々は一喜一憂していたがそれは悲劇というにはほど遠いものだったようだ。
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